静岡の高速バス倉庫 アーカイブ

過去記事のアーカイブになっています。

とり☆さか軍団

「ただいまー、ああ、今日も満席満席。」
そう言って三人兄姉の末っ子が帰ってきた。
「お帰りー。今日はどうだった?」
「今日はどうって・・・相変わらず満席だよ。全く、誰が煽っているかは知らないけどさ。ま、お客さんが居ないよりは気分は楽だけど。」
 日付が新しい日に変わる1時間と少し前、僕ら兄弟が全員揃う。みんなそれぞれ仕事に行っていても夜になればみんな揃ってほっと一息つけるのがいいところなんじゃないかな、って思う。6月16日から始めたこの仕事、色んな所で色々と言われて居るみたいだけど、僕は決して嫌いじゃなかったりする。
「渋新の連中ったら、割引券ばらまいてお客さんをかすめ取って行きやがるんだよなぁ。おまけにバックはあの鉄道会社だろ。全く気に食わねぇ。今度会ったらぶち抜いてやる、って言いたい所なんだけどねぇ・・・。」
 血気盛んなのは上の兄貴。どうやらライバル会社の便が割引券を出しまくってお客さんを取りまくっている事が気に入らないっぽい。
「でもさ、兄貴の便はまだいいんじゃねぇの?こっちを朝一番に出て新宿には先に着くんだしさ、週末なんかはヘルプにおじさんが入ってくれるから」
「それだけ乗ってくれなかったら俺マジで切れるよ。で、お前はどうなんだ?」
 こんな感じでいつも振ってくる。
「確かに僕も割引券ばらまきって言うのは気に入らないんだけど、あっちは渋谷とか通るし、やっぱほら、某巨大鉄道会社の肝いりだから・・・何かこう、頑張っても叶わないって言うか、何か別の世界に生きているって言う感じだよね」
「お兄さん、それ違うよ。私ね、時々その子と足柄でおしゃべりするんだけど、やっぱりその子はこっちの事を羨ましいって言っているよ。駐車場があったりとか、しっかりとした割引制度があったりとか・・・」
 兄姉の一番下はただ一人の女の子。結構冷静に色々と見てるって言うか何というか。東京の休憩所でも色んな子と気楽におしゃべりをしている訳で。兄姉だと言ってもやっぱり社交的なのかなぁ・・・なんて思っている。
「何向こうのいいなりになってんだよ。俺らは俺らでしっかりとお客さんを乗せて走らなくっちゃならねぇんだろ、鳥坂軍団としての気概を持て、気概を」

 ・・・鳥坂軍団か。
 兄貴が先輩たちから聴いた色んな昔話を僕は知っているし、やっぱりそれは大事な事だと思う。今でこそ無くなってしまった大先輩が東へ西へ行ったって言う話も聞いているし、僕たちでは行く事が出来ない「いかわ」って言う山に向かう先輩も居る。確かに僕はその先輩たちの事を誇らしく思うけど、だからと言ってその先輩たちの事を無条件に受け入れたくは無いって思う。そう、時代の流れの中で僕たちに求められる役割も変わっていくわけだから。

「お前ら、潰すの潰さないだの訳の分からない事を言っている前にさっさと寝ろ。また明日も早いんだぞ」
そう、いつもこんな話を締めるのは西久保から引っ越してきた叔父さんだったりする。その昔は貸切車として日本中あちこちを走り回った大先輩。誰もがこの大先輩には頭が上がらない。そして僕たちはいつものように眠りに就くのだ。


しずてつジャストライン 鳥坂2982号車 駿府ライナー号


しずてつジャストライン 鳥坂534号車 駿府ライナー号

*この項目続く