静岡の高速バス倉庫 アーカイブ

過去記事のアーカイブになっています。

と言う訳で高速ツアーバスをストア・コンパリゾンしてみた。

 今回の大阪行は打ち合わせもあったのですが、どうせならば・・・と言う事で以前発表会にお邪魔させて貰ったウィラートラベルの「高速ツアーバス」に乗ってみました、それもビジネスシートで。車両としてはなかなか良かったですし、海老名SAを出てから結局は新大阪駅のあたりまで延々と寝ていく事ができました。

 今回は2C席を使いましたが、座ってみるとこんな感じの眺め。正面にある一人用座席は交代のドライバーさん用の座席で、一般の利用客には開放されていません(まぁ、当たり前って言えば当たり前ですね)。あと、一番印象的だったのは「随分開放的な空間だな」って言う所。考えてみればJRのドリーム号で言う所の「スーパーシート」は2階建てバスの2階席、この「ビジネスクラス」車両は平屋車両ですので当たり前と言えば当たり前の話かと。車両面で言えばかなり快適だったのですが、足乗せが何か台みたいなものだったところや、ドリンクホルダーがカクテルテーブル?みたいな所にしかなく、走行中にペットボトルが床に落ちたって言う所くらいでしょうか。
***
 車両に関しては確かにグレードは高いのですが、その分気になるのはソフト的な面。今回は新宿住友ビルのターミナルから乗車しましたが、まずは「新宿駅から何と言っても遠い」って言うのが厳しいです。地下道をずっと西口から歩いてきたのですが、住友ビル付近には何も案内が出てないですし、確か地下1階だったかな・・・と思って地下に行ったら何も案内が無い、これは流石にどうかと思います。遠いのは「駅周辺での路上駐車をしない」と言う方向性だと思いますし、確かに「ターミナル」を作ったのは1つの見識だとは思いますが、それならば現地の案内をもっと充実させるのが筋かと思う所。
 とまぁ、チェックインして、待合スペースで待って、搭乗口への案内って・・・それって「飛行機の搭乗イメージじゃん」って思ったのですが、確かにその通り。多分その辺りのノウハウを吸収したくてANAと提携したのでは?と思う所です。二次元バーコードを使った「乗車券」と言い、搭乗ゲートと言い、チェックインと言い、まさにその通りと言うか何と言うか。バスに乗るのに「あれ?飛行場?」って言うのが感想でした。
 あと、「搭乗ゲート」からバスの駐車場まで歩いて行くって言うのは一体どうなんでしょう。距離にしては大体100m程度かもしれませんが、階段があったりとか屋根が無い所と言うのははてさて。新宿のど真ん中に作ったのはいいのかもしれないですが、個人的にはどうなのかなと思うところも。
***
 そして大阪。
 
 ホテルの前ですが、どう見ても路上降車です。路上降車は「バスツアー」でもやっているのでどうこう言う事はありませんが、やっぱり場所は分かりにくいです。大阪駅の桜橋口までは「梅三小路」を通ればすぐになるんですけど・・・う〜ん、これは初めて大阪に行く人には正直分からないような気がしないでも無いです。
***
 車両そのものは、JRや民鉄系高速バスに大きな影響を与えたものだと思いますし、やはりウィラートラベルが「旅行会社」と言う観点で参入したと言う事は「高速路線バス/高速ツアーバス」業界にとって色んな影響を与えた事は認めるところですし、新規参入事業社が既存事業者との差別化を図っていると言う「教科書」的なものであるのは、今回初めて「高速ツアーバス」に乗って実感する事が出来ました。いや、車両だけで見たらプレミアムドリーム号乗るよりも「ウィラーのビジネスクラス」の方がいいんじゃない?って思う所です。
 ですが、予約から旅行終了と言う一連の流れで見た場合には、「これは流石に無いだろ」と言う部分もあります。
 ウィラーは新規事業者と言う事もあり、完全に「航空会社を真似たシステム化」されています。確かに自分たちの年代以下の人にとっては使いやすいですが、果たして「何でもwebで片付けてしまっていいのか?」と言う所を感じます。急遽出かける必要が発生したときであるとか、自分より年齢の高い人が出かけるときに「どこの窓口できっぷを買えばいいのか?」と言う事になるでしょう。また、地理不案内な人が「乗り場が分からない」と言うところもあります(事実、自分も迷いましたし、恐らく他の便に乗るであろう人も悩んでいました)。
 少なくとも、自分が相談を受けてウィラーの高速ツアーバスを薦めるか・・・と言われれば、現状では薦められないです。確かに車両はいいですけど、「予約から目的地到着まで」と言う流れを見ると流石に分かりにくい部分が多すぎますし、旅慣れていて、出先でも携帯やiPhoneiPadを使いこなせる人じゃないと正直厳しいです。それだったら素直に「JRのドリーム号か、京王の新宿・渋谷〜大阪(阪急梅田)線がいいよ」って薦めます。
***
 今回の実査を通して、「PCを使いこなせる比較的若い旅慣れた人に対し、都市間輸送サービスを、様々な車両サービスレベルで提供する」とウィラーは自社の事業ドメインを決めているのではないか、と言うように感じました。このドメインは間違っているとは思いませんし、実際にこの事業ドメインで進めているが故に今まで「高速バス」から遠かった顧客を集めているのではないかと思います。これはこれで否定はしませんし、経営的には間違ってないと思います。
 ですが、同社の事業を「公共交通機関」と言う観点から見た場合、この事業ドメインが本当に正しいものなのか?と思うと正直言って私は疑問ですし、この事業ドメインでは「交通機関」ではないと思います。何故ならば「PCを使いこなせる比較的若い旅慣れた人に対し」と言う「対象とする顧客」を限定している段階で「公共交通機関」ではないからです。この部分多分突っ込まれると思いますが。
 「公共交通機関」とは「不特定多数の顧客の要望に応じ、輸送サービスを提供するサービス業」です。タクシーは「不特定多数じゃないだろ」と言われる方も居るかもしれませんが、乗る人は一人であっても「どんな人にも乗る機会がある」公共交通機関です。そりゃまぁ運賃は高いですからお財布に余裕のある人でないと厳しいですが、雨が降ったりだとかバスや電車が無い時間帯、怪我をしている時などは使う機会があるでしょう、どんな人であっても。電話1本で迎えに来てくれますし。
 高速路線バスだってそうです。ネットで予約どころか決済まで出来たりしますが、どんな人だって取りあえずバスターミナルまで行ってきっぷを買う、場合によっては乗るときにドライバーさんに運賃を払えば輸送サービスを受けられます。要は「アクセシビリティの問題」だと思うんですよね。(いや、ウィラーもターミナルまでたどりつけて、当日空席があればチェックインカウンターでお金を払えば乗れるとは思います。チェックインカウンターには旅行業取扱主任者を掲示してある国交省様式の書類が掲出してありましたし)
 さてさて、ウィラーだけに限らず、高速ツアーバスが今後どのような展開を見せてくれるのかと言うことや、高速路線バスが負けじとどのような施策を展開してくるのか、一利用者として楽しみに見ていきたいと思います。まぁ、路線バス厨ですが(笑)