静岡の高速バス倉庫 アーカイブ

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3/9 あさぎり3号 新宿→沼津

 生まれ、伸びていくものがあれば消えて行くものもある。

 ー特急「あさぎり」号。
 沼津から御殿場線小田急線を経由して新宿まで結ぶ2時間と少しの距離を走る、JR東海では唯一「1M」と言う列車番号を持つ特急列車である。元々は小田急電鉄が自社の車両を使って新宿から御殿場を結ぶ「連絡急行」として運行をしていたが、今から20年程前に特急列車に格上げされた上、運転区間が御殿場から沼津まで延長された。当初は西伊豆方面への観光の足としても期待はされていた。
 が、思惑通りに進むことはなかった。同じ会社の「新幹線」、別会社グループが運行する高速バスの運行本数増加、不況による観光業界の構造的な不況と言った外部要因がそこにはあった。だが、最大の要因は「内部」にあった。

 車両である。
 小田急の車両はハイデッカー・ダブルデッカー構造と言うこともあり、近年の「バリアフリー化」に対応できないと言う問題を抱えていたことや、JR東海の車両は一日当たりの走行距離数が長かったことや1編成しか無かったと言うこともある老朽化。見た目は両社の編成ともまだまだ十分活用できるようには見えるが、この3月16日を以って「あさぎり号」の運用から外れ、小田急電鉄の車両は廃車に、JR東海の車両は団体用などとして第二の人生を送ることになっている。

 自分が高校生の頃から何度となく使ってきた「あさぎり号」。前回小田急20000形で新宿から沼津を目指したが、今回はJR東海371系で最後の旅路を堪能する事にした。お別れを告げるために。


この案内表示を観る事が出来るのも残り数日。

小田急新宿駅、午前10時を少し回った頃。静岡から「ホームライナー沼津2号」〜「あさぎり2号」として371系がやってくる。ホームにはこの371系の勇姿を捉えようとするカメラを持ったファンが多く待ち構えている。自分もスーツ姿ではあるものの、その中に混じってカメラを向けていた。何度となく入線してきたこの小田急新宿駅も、入線する機会は本当に残り少なくなっている。

実は、今まで平屋席やグリーン席は何度となく乗っていたものの、この1階席には「あさぎり」運用時に全く使ったことがなかった。また、ホームライナー運用時には「その席が出てくるのか分からない」ものもあり、確実に座れる訳ではない。そんなこともあって、最初で最後の「1階席」をチョイスしてみた、と言うのが実際の所である。
列車は10:15に新宿駅を出発。他の車両には多くのお客さんが乗っているみたいではあるが、1階席は20000形のセミコンパートメントほどではないもののかなり個室に近い感覚。こうなってくると実際にお客さんがどれだけ乗っているかは全くわからない。ちなみにこの1階席には自分ともう一人が新宿→町田間、別の人が本厚木→御殿場間で乗っていただけであり、都合3席しか売れてない状況。むしろ車内の写真を撮りに来るファンが多かったと言う状況。

眺めは正直宜しくない、とは言うものの複々線区間を走っている間は写真のように外側線(=緩行線)を走る列車が直ぐ側に見え非常に迫力がある。この日は雨模様と言うこともあったため、窓の外の景色はほぼ観ることができない。それ故に1-2アブレスト、かつ、2階席のグリーン車と同じシートピッチと言う普通車としては破格の座席になっている。

松田から御殿場線に入ると小田急線内の鈍足ぶりとは打って変わって、坂道をアグレッシブに駆け上がっていく。この走りは「ロマンスカー」ではなく「特急列車」と言うのにまさにふさわしい。かつては特急「燕」などの日本を代表した列車が駆け抜けた御殿場線を走っていくが、それももう少しの間だけ。山北の桜も「あさぎり」号として出会う事はもう無い。そう思うと少し寂しい気分にもなってくるが、やはり時代の流れであるのか仕方がないところである。普段なら富士山をバックにした勇姿を捉えようとする名撮影地もこの日は誰一人として居る事は無かった。雨の御殿場線を沼津へ向けて淡々と走っていく。

御殿場を出ると、3号車1階席は本当に誰も居なくなった。
・・・気持ちとしては後継車が出てきて欲しいと思うし、まだまだ沼津まで走って欲しかった。いや、その前に小田急JR東海も出来ることはあったのではないか、と実は思っている。どうやってお客さんに使ってもらうのか、そのためにはどうやって知名度を上げるのか、そんな事を本当は考えて欲しかった。だが、結局は「外部環境」がそれを許さなかった、と言うのがあるのかもしれない。数字と気持ちの狭間で考えてしまう事は多いが、鉄道会社も一企業。その判断をどうこう言う事はできない。ただ、出来るのは見送る事。

沼津駅着12:18。2時間3分の短いお別れは終わった。
願わくは、最後の日まで、色んなお客さんの色んな想いやキモチを乗せて走り続けることを。