静岡の高速バス倉庫 アーカイブ

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思い出になる前に - 338M 「通勤電車の風景」 -


 色々と忙しかった仕事を終え、いつものように静岡駅へと向かって歩いて行く。考えてみれば、今からかれこれ16年位前になってしまうのだろうか、このまちにある会社で仕事をし始めた。一時期は異動になって別のまちでも短い間仕事をしたが、その会社を辞め、今の勤務先に就職した。途中で数年とか半年の中断はあるものの、朝静岡駅に降りて事務所に向かい、仕事が終わると静岡駅へと向かうそんな通勤経路である。10年以上経って、このまちの景色も色々と変わった。


 改札口の上を見上げると電光掲示板。そこには「19:30 普通 東京」と言う文字が。ああ、そう言えば今度のダイヤ改正で静岡発の東京行きがついに無くなるのだな、と言う事を思い出した。折角だからたまにはこの「普通電車の東京行」に乗って帰ってみようと思った。

 普通電車の東京行。
 そう言えば昔はそんなに珍しいものではなかった。中学1年の頃はまだ「国鉄」の頃。今では313系や211系と言った短い電車がねぐらにしている静岡車両区も、当時は「静岡運転所」で、東京口113系11両編成が静岡にやって来ていた、いや、むしろ静岡をねぐらにしていた。学校帰りに乗ったのは113系の東京行と言う時代。その後、付属編成だけになったものの「横浜行」と言う付属編成送り込みの列車もあったし、国府津113系や田町の113系、211系がまだまだ走っていた。
 そして、2004年の10月。東京口からの113系撤退の少し前に静岡所属の東京口付属編成用の4両編成が東京に行かなくなり、静岡駅で東京行を見るのも、この19時30分頃の東京行しかなくなった。

待つことしばし、19時15分頃に東京行が車庫からやってくる。
一番最初の勤め先からの帰り、ほぼ毎日この電車に乗って自宅最寄りの草薙まで帰っていった。そんなこんなで16年近くこの電車には「静岡→草薙」間でお世話になっていた。今でも多少仕事が遅くなるとこの電車に乗って帰っていく。ホームライナーにも使われるが、定期券1枚だけで乗る事が出来るのは本当にありがたい話である。
何回かは、会社帰りにこの電車に乗って自宅に帰ってから、夜行の「ムーンライトながら」号に乗って西へ向かう事もあったが、その時にはわざわざ同じ席に乗って帰ると言う酔狂な事もやっていた。だが、この373系を使った「ムーンライトながら」号も歴史になってしまった。そして、この普通列車ももうすぐ歴史にかわろうとしている。

確かに椅子もちょっとくたびれ気味かもしれない。室内も登場時から言われている「仕切りドアが無い」と言うのは相変わらず。だけど、そんな車内にどことなく愛着を感じるのは、やはり「乗り慣れている」からなのかもしれない。用務で「ふじかわ号」に乗った時にかけられている枕カバーを見ると「あれ?何か違う」と思うのは多分自分だけじゃないと思う。そして、電光掲示板に出る「普通 東京行」と言う文字も後1ヶ月と少しだけ。

静岡駅を滑りだすと、すぐに東静岡駅。外は既に宵闇で何も見る事は出来ない。
本当に疲れている時にはたかだか7分の時間だけであるとは言え寝てしまう事もあった。が、この列車では寝過ごしをした事はない。むしろ他の列車なら乗り過ごしそうになるし、1回だけは蒲原まで寝過ごした事はあった(幸いに終電で帰ってくる事はできたが)。草薙駅入線直前のポイントの揺れを体が覚えている、多分そんな感じなのかもしれない。

そして、草薙到着。駅の改良工事が行われる事が静岡市からアナウンスされては居るものの、降りた風景は昔のまま。

列車は東京へ向かって、始まったばかりの行程を進めていく。一度でいいから会社帰りにふらっと乗って。そのまま東京まで乗っていきたいと思う事は何度もあるが、まだその願望を果たした事はない。

3月16日までにその願望を果たす事はできるのだろうか。