静岡の高速バス倉庫 アーカイブ

過去記事のアーカイブになっています。

海に一番近い道。

「ほらー、行くよぉ。」
「・・・ったく、お前はいつも元気がいいなぁ」
「元気だけが取り柄なんだからね(笑)。ほら、お客さん待っているんだから」
「はいはい。」
「じゃぁ、行ってきまーっす!」



 いつものように、自分の家を出る。通りですれ違う親戚の子や、お友達と話を色々話をしながら。

「あ、波子ちゃん、おはよー」
「あ、有明ちゃん、おはよー。」
「この間は何かずいぶんやつれた顔をしていたけど、一体なんかあったの?」
「何かあったもじゃなくって・・・。年に2回のアレよ、アレ。」
「・・・アレの日だったんだ。じゃぁ、やつれた顔しちゃうのも仕方ないわね」
「波子ちゃんもお姉さんから話し聞いているでしょ?アレの時って瞬殺でチケット売れちゃうって言う話。」
「聞いた聞いた。私なんかは清水線しかやってないから話でしか聞かないけどね。」
「あーあ、羨ましいわ。波子ちゃんのところが」
「そうなのかなぁ?あ、じゃぁ私そろそろ行くね」
「行ってらっしゃい、気をつけてね」


 いつもの交差点を夏の風を感じて曲がると、始発の東京駅はもうすぐ。さぁ、今日も私の仕事が始まる。この清水線を担当しているのは江子お姉さんと私、そして妹の美穂。それと、中野さんちの苺ちゃん。苺ちゃんは「何かあの子嫌い」って言われる事多いみたいなんだけど、何でなのかよく分からない。それと、今年中にもう一人新しい仲間が来るみたいなんだけどね。そうそう、いつも仕事で泊まっている折戸で会う子の末っ子さんみたいなんだ。新しい子が来るのか、それとも、今は中部空港に行っている子が転勤でこっちの仕事をするのか分からないんだけど、それでもどんな子が来るのか楽しみだったりする。



 「おはようございます。7801便到着しました。」
 「おう、今日は波ちゃんか。毎日毎日同じ所ばっかり走っていて面白くないだろ?」
 「いや、そうでも無いですよ。大きなお姉さんたちみたいに全部の停留所止まらなくっちゃならないって言う話じゃないですから。」
 「あーあ、そういう事をまた言う。そんな事を言っていると由美子先輩にお手伝いしてもらえなくなるぞ」
 「いや、それは。マジで困ります。ごめんなさい。で、今日は何人くらい乗っているんですか?」
 「おう、今日は・・・何てこったい。朝の便なのに20人も乗っているよ」
 「え?本当ですか?朝からお客さん多いと仕事のしがいがあるなぁ」
 「まぁ、そんな日もあるってこって。じゃ、気をつけて行ってきな」
 「はーい、じゃ、行ってきます」

 普段通りの会話をしてから東京駅を出発する。冬から春、春から夏、そして、こんど迎える秋って言う季節はどんな季節なんだろう。まだ生まれて一年も経ってないから分からない事は本当に多い。けれども、乗っているお客さんの声を聴いているだけで嬉しくなってくる自分がどっかに居る。
 「ねぇ、今日はどんなお客さんが多いの?ずいぶんにぎやかなんだけど。」
 「今日はなぁ・・・、何か団体さんみたいだよ。聞こえてくる話だと、清水港から西伊豆にフェリーで行くんだってさ」
 「へぇ、そんな観光ルートもあるんだ。全然知らなかった」
 「いや、俺も正直驚いているのよ。」
 そう、私たちでは思いもよらない観光のお客さん。清水に行くお客さんや、時々は新清水で乗り換えて静岡に行くお客さんをご案内する事はあるんだけど、伊豆に行くお客さんって言うのは正直初めて。私も伊豆の方へ行ってみたいなぁ、なんて思ったりもするんだけど、聞いた話だと沼津から先が色々と面倒らしい。道路が混んで大変だったりとか、峠越えが結構大変だったりとか。
 「でも、船に乗っていくって事・・・良く考えつくよね」
 「それだけ必死なんじゃないの?」 
 「そうかもね」
 そういって、私たちは笑った。そんな間に、波止場でお客さんたちは降りて行った。伊豆への色んな想いを乗せて。



 自分では「海に一番近い高速バス」だと思っている。
 本当はそんな事無いかもしれない。だけど、新しい「道」を開くことができたのは、
 私が「海に一番近い」からなのかもしれない。
 



JRバス関東 東京支店 「しみずライナー」H658-05405号車