静岡の高速バス倉庫 アーカイブ

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wake me up!

「う〜ん、今日もよく寝たなぁ」
朝5:30。夏も少し遠くに過ぎて、あの頃のように明るいって言う事はない。
「おはようさん。さぁ、今日も一日頑張りましょうか」
「はい。頑張りましょう。だけど、また最終便でここに泊まるんでしょ?」
「おいおい、朝からそんな憂鬱な事を言ってくれるなよ。清水二連泊なんて一体どういう行路を作っているんだか。」
「まぁ、しずてつさんが入ってくるまでの我慢なんじゃないんですか?」
「いや、それはまだ分からないぞ。」


清水での朝は毎朝こんな感じで始まる。7802便、折戸車庫発5時40分。一番の早起きの仕事だ。この便に乗る人は日によって色々と違う。東京へ出張へ向かうビジネスマンも居れば、これから遊びに行くぞ、って言う感じでみなぎっている人も居る。だけど、私にとってはみんな同じ大事なお客様・・・なんだけど、ちょっと違うんだよね、この便の雰囲気って。みんな寝ているって言うか何って言うか。まぁ、朝早いから仕方ない部分はあるんだろうけど。

「さて、全員乗ったわね・・・。今日は20人が少し欠ける位なのね」
「まぁ、そんなもんでしょ。どうする?今日は。」
「今日は、って言われても、走るしか無いでしょ」
「まぁ、それが仕事だし。」


 東の空から上がってくる太陽に向かって走るのは正直まぶしかったりする。だけど、この便だけでしか見る事の出来ない風景ってあるよね、って事を良く姉妹で話していたりする。朝日に輝く駿河湾と伊豆の山々、そして富士山の風景は申し訳ないけど私たちだけにしか見る事が出来ないんじゃないのかな?と。・・・あ、そう言えばドリーム号担当の子なんかもここ最近は見る事が出来るのよね。だけど、微妙に彼女たちは時間が早いんだっけ。
 確かに生まれてからこの路線しか走った事が無いんだけど、他のどんな路線よりも景色は実は綺麗なんじゃないのかな、東名高速って。海もあれば山もあるし、町もある。この路線を走る事の「幸せ」って言うのを感じてみたりして。だけど、お客さんはみんな寝てばっかり。つまんないのー。
「ねぇ、何でお客さんたち寝ているのよ。こんないい景色なのに」
「いや、朝早いから仕方ないんじゃないの?あと、何度も通っていればそりゃ見飽きてしまうだろうよ、この風景は」
「そんなものなのかなぁ。」
「なーに、そんなもんさ。俺たちは日によって車の数が多かったり少なかったりするから、毎回毎回違うように感じるけどさ」


 沼津からの坂道を登り切ると足柄のサービスエリア。今まで寝ていたお客さんも目が覚めて、10分間だけど思い思いに休憩を取る。時間がどうしても無いので、洗面所の近くに止めるって言うのがこの便ではどうやらお約束なのよね。まぁ、首都高がどうなるか分からないから仕方ない部分もあるんだけど。
「今日は箱根の山も何かきれいね」
「そう言えば久しぶりだよ、こんなに綺麗な箱根の山を見るって言うのも。やっぱり雨が上がったからなんじゃないのかな?」
そう、そんな些細な事に楽しみを覚えてみたりとか。朝の空気の中で、一息付ける時があるんだよね。本当に。でも、清水からまだ1時間も経ってないって言うのが実際の所だったりする。


「さて、もう一息、東京駅まで走りますか。」
「そうしましょう、そうしましょう。」
朝の瑞々しい空気の中、私たちは走っています。そう、お客さんの「大事なもの」のために。


JRバス関東 東京支店 「しみずライナー」H658-05404号車