静岡の高速バス倉庫 アーカイブ

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夏時間、夏列車。 -東京発静岡行普通電車、最後の夏-

 何処か遠くへ行きたい、そんなワケでも無い。ただ、その電車は東京静岡間180.2kmの各駅に止まりながら丹念に走っている。毎日毎日、同じ時間に同じような人を乗せて。だが、時にそんな電車もまた違った貌を見せる。そう、夏休み。
 父親と母親に連れられた小さな子供、実家に帰省する若者。そして、時間帯こそ違うものの東海道を西へ西へと向かう旅人。そんな色んな想いを普段の想いに鏤めて西へと向かっている。だが、そんな想いを鏤めた電車にとっては最後の夏になる。そう、沼津から西へと向かう電車は1往復だけになってしまうのである。普段東海道線で走っている電車が、箱根の山を越え、富士山の麓を駆け抜け、静岡に行くと言うのが歴史になってしまうのである。
 10年後、僕はこんな話ができるのだろうか。
「お父さんが小さい頃はね、静岡から東京まで乗換無しで行ける普通電車があったんだよ。その電車の中で本を読んだり、居眠りしたり、学校のレポートを書きながら東京の大学まで通っていたんだ。」
 話ができるかもしれないし、話ができないかもしれない。
 けど、最後の夏の記憶だけは心に留めておきたい。このまちには、そんな電車が色んな人の想いを乗せて走っていたんだって言う事を。