静岡の高速バス倉庫 アーカイブ

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「バス事業のあり方検討会」報告書を読んでみた。

 久々に硬い話題でも書いてみる事にします。
 
 表記の通りの報告書がアップされていたので早速読んでみた訳なんですが(興味の有る方は一読して頂ければと思うところ)、しっかりと議論が行われて(実際にどんな議論があったかどうかは気になる所ではあるのですが)、現在の「高速乗合バス」と「高速ツアーバス」がどのような状況にあるのかと言うことや、そこで発生している問題を上手くまとめていると思います。一読する事によって「何でこの検討会が立ち上がったのか?」と言う問題意識を観ることが出来ると思います。そして、「2.高速バス分野における対策について」で「あるべき姿」をまとめ、「3.高速バス市場のさらなる発展に向けて」で市場としてみた場合のその一歩先の方向性を示しているように読めました。

 その要旨を簡単(乱暴)にまとめてみると・・・

【現状】
 ・「供給面の柔軟性は高いが走行経路や乗降場所などの安全性が制度的に担保されない高速ツアーバス
 ・「安全性は制度的に担保されているが供給面の柔軟性に乏しい高速乗合バス」
 ↓
 ・高速乗合バス、高速ツアーバス、それぞれに「強み」を持っている。
 ・高速乗合バス、高速ツアーバスそれぞれが持つ「弱み」を実は双方とも克服できていない。
【解決の方向性】
 ・安全性に関しては「高速乗合バス」の持つ「強み」で利用者への訴求が可能である。
 ・顧客のアクセシビリテは「高速ツアーバス」の持つ「強み」で利用客への訴求が可能である。

 そのための基本的な方向性を示した、と言うのが今回の報告書の一番の目玉なのかなと思います。その各事業者における様々なアクションプランを実施するために必要な法整備(制度見直し)の方向性を示したもの、と言うように個人的には読みました。いや、アクションプランは今後各事業者が自分たちの持っている路線や顧客、その他特色を活かしていくのか?と言う分析をしてから作るものなので、その「前提条件を先ずは行政レベルでこんな事を整備した方が良い」と言う提言です。

 で、感想。
 これって、現行高速乗合バス事業者にとっても、高速ツアーバス事業者にとっても「無茶苦茶ハードルの高い課題」だと思いますよ、正直言って。

 まず、高速ツアーバス事業者にとって「ハードルが高い」と思う部分は、「運行事業者をどうやって見つけるのか?」「安全性をどうやって担保していくのか?」「バス停をどうやって設置するのか?」と言う部分かと思うところ。
 23ページの「新たな高速バスサービスの事業モデル」を見ると、新しいモデルだと「乗合バス事業者が利用者と乗合運送契約を締結する」となっているわけで、今のような「旅行業者と利用者間の旅行業法による企画旅行契約」ではない、と言うところ。これは、「高速ツアーバス商品を企画して販売している旅行業者が乗合バス事業者にならないと事業を継続できない」と言うことなのではないかとも読めますし、当然ながら自社でドライバー・車両を持ってないとならない事になるんですよね。その「事業形態の移行」が円滑にできるかどうかと言うのがまずは気になる所(大手は既に自社グループの中にバス会社を持っているところもあるので、今後はそこが運行するバスにお客さんを「送客する」と言う形になるのでしょうが)。
 そして、運行委託契約には国土交通大臣の許可が必要になる、となると安全確保措置が必要になるので「安いから」と言う理由で選ぶ事ができなくなる、と言うように読めます。
 バス停に関しては案外何とかなるような気がしないでもないですが、行政的には決まるかもしれないけれども、最終的には近所の人の許可を得なくちゃならないわけですから・・・果たしてどこまでうまくいくのか?と言うのも気になります。

 次に高速乗合バス事業者にとっての「ハードルの高さ」なんですが、一言で言ってしまえば「ビジネスモデルを変えることが出来る社内の経営環境があるかどうか」と言う事に尽きると思います。今までの「地元の人相手の商売」から「地元の人が第一の顧客であるのには変わりはないけど、それ以外のお客さんをどうやって掴んでいくのか」と言う部分なんですよね。ネットを使った販売を効率良くするためにはどうすればいいのか、エリア外での誘客体制をどうやって構築していくのかと言う部分。

 あくまで個人的な感覚なのですが、この「高速ツアーバス事業者の課題、「高速乗合バス」事業者の課題、さて、どっちが解決が難しいのか・・・と言われれば「高速乗合バス」事業者の課題だと自分は考えています。

 何故ならば、「経営者の柔軟性」が問われる話であるがゆえだからと思うのです。
 ドライバーさんの接客態度とか言うような「小手先だけでどうにかなるような問題」ではなく、「企業」としてのあり方が問われる課題だからです。
 何故ならば「高速乗合バス」の事業者であるバス会社は良くも悪くも地元の「名士」とも言える企業です。当然そこには長い伝統もある訳ですし、その中で築きあげてきた「ビジネスモデル」と言うものが存在するわけです。この報告書ではその「ビジネスモデルを完全に捨てろ」と言っている訳ではないと思うのですが、「新しいビジネスモデルの導入をしましょう」(意訳)と言ってる訳ですから、正直並大抵のことではないと思うのです。配車の方法とか宣伝方法ではなく、その上位階層にある「経営戦略」そのものの見直しを求められる事業者もあるのではないでしょうか。
 その「経営戦略の見直し」をどう進めるのかと言う「企業の根本的な方向性の見直し」(路線レベルの話ではない)ができた事業者は、恐らく今まで以上にいい方向性に進むとは思いますが、そうではないと・・・と考えざるを得ない所です。

 今後の制度改正がどんな感じになっていくのか、非常に気になる所ですね。